ARTIST

ART PROGRAMアートプログラム部門

大小島 真木 Maki Okojima
二つの海 ――海を孕む、海に孕まれる

この地に生まれる前、私たちは誰もが胞衣と呼ばれる膜に包まれて、小さな核として羊水のなかを漂っていました。
哺乳類の羊水は薄い塩水だそうです。これは海中で脊椎動物が誕生したときの海、つまり古代の海の塩分濃度と同じなのだと解剖学者の三木成夫さんは話しています。
私は海のことをずっと生命のスープだと感じてきたのですが、海とはまた、この地球という惑星の羊水のことでもあるのかもしれません。
あるいはこの惑星自体が、私たち生命を孕んだ、巨大な胞衣でもあるのかもしれません。
私たちは母親のお腹の中に蓄えられた古代の海水の中で、その豊富な栄養を全身に浴びながら分裂を繰り返します。
胎児になる前の胎芽は、最初は魚類のようであり、ついで両生類のようになり、さらに爬虫類のようになり、やがて哺乳類の姿へとメタモルフォーゼしていきます。
そして十月十日の生命進化の旅路の末に、私たちは産道を潜りぬけ、地上へと降り立つのです。
哲学者のエマヌエーレ・コッチャさんは、「植物は海が存在しない場所に海をしつらえたのである。
世界を巨大な大気の海に変え、あらゆる生物に海洋での習性を伝えていったのだ」と書いています。
そう、陸地もまた、植物たちがその息吹によって創りだしたオゾンという羊膜に包まれた、ひとつの海なのです。

私たちの外にあって、私たちを孕んでいる、海。
私たちの内にあって、私たちに孕まれている、海。
海のほとりの小学校で、私たちを生かしている二つの海を想います。

  • 大小島真木 Maki Okojima

    PROFILE

    異なるものたちの環世界、その「あいだ」に立ち、絡まり合う生と死の諸相を描くことを追求している。 インド、ポーランド、中国、メキシコ、フランスなどで滞在制作。2014年にVOCA奨励賞を受賞。 2017年にアニエスベーが支援するTara Ocean 財団が率いる科学探査船タラ号太平洋プロジェクトに参加。 2021年「ククノチテクテクマナツノボウケン」KAATで舞台美術を手がける。 主な展覧会に、「コレスポンダンス」(2022年、千葉市美術館 | つくりかけラボ)、「地つづきの輪郭」(2022年、セゾン現代美術館)、「Re construction 再構築」(2020年、練馬区立美術館)、「瀬戸内国際芸術祭-粟島」(2019年)、個展「L’oeil de la Baleine/ 鯨の目」(2019年、フランス・パリ水族館)

  • 【Guest Curator】伊藤悠 Haruka Ito

    PROFILE

    PROJECT ATAMI総合ディレクター。アイランドジャパン株式会社 代表取締役。
    1979年滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業。人間・環境学研究科 共生人間学専攻修了。
    京都芸術大学芸術編集研究センター、magical, ARTROOMディレクターを経て2010年islandをスタート。
    ギャラリーの経営、アーティストのマネジメントから、六本木アートナイトや寺田倉庫、ACAO SPA & RESORT、108 ART PROJECTなど外部企画のコーディネートやプラニングなど、アートと社会を橋渡しする活動をおこなう。
    早稲田大学文化構想学部でアートコミュニケーションを教える。

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